高校生の学習戦略・学校文化・進路意識に関する調査


調査概要

 調査対象:日本の高校に在籍する高校2年生
 調査方法:紙面およびWEBによる
 調査期間:2017年10月〜11月
 調査内容:基礎情報(学校名、学科名、性別、得意科目)および以下の調査項目
部活動、アルバイト、授業・テストでの行動、普段の勉強をどのように考えているか、授業ノートの提出義務、学校外部模試、学校以外の学習機関、学校への評価、学校に求めること、教師に求めること、学校への満足度、将来への意識、成人への評価、自己肯定感。

 WEB調査については、まず、筆者の所有するSNSのアカウントにて広報を行い、調査協力が可能である旨の回答があった高校2年生に対して、調査URLを送信した。調査URLを送信された者は「紹介者」として、同じ学校かつ同じ学年の生徒にURLを転送し、調査に協力してもらうよう要請した。
 紙面調査については、公立高校の生徒(2校74人)を対象に行った。

 全回答数:WEB調査(321件)、紙面調査(74件)。計395件。
 有効回答数:WEB調査(314件:38都道府県106校)、紙面調査(73件:2県2校)。計387件。男女の内訳は、男184、女203。

入学時学力偏差値 呼称 うち、男 うち、女 合計
70以上 A群 18 23 41
60以上70未満 B群 41 54 95
50以上60未満 C群 38 31 69
50未満 D群 75 84 159
不明 - 12 11 23
合計 184 203 387

  偏差値平均 = 55.14 ; 全体の偏差値中央値 = 53

 学力偏差値については、「みんなの高校情報」(https://www.minkou.jp/hischool/)に掲載されている、高校入試時点での学力偏差値を用いた。中高一貫校で、高校入学偏差値が掲載されていない場合は、中学受験生向け予備校である「四谷大塚」(https://www.yotsuyaotsuka.com/)において、高校入試を行っている同等の学力偏差値である高校を参考に推定した。また、通信制高校などで、生徒の学力が多岐に亘る場合は、不明として分類した。

 なお、紙面による調査校(2校)は、ともにD群に分類される学校である。


質問・回答・グラフ

A. 「性別」を教えて下さい。

 1.男性 2.女性
  男 184 /女 203。

B.「学科」を教えて下さい。

 1.普通科 2.理数科 3.農業科 4.工業科 5.商業科 6.総合学科 7.それ以外の学科【   】

学科 人数(人) 比率(%)
普通 298 77.0 %
理数 4 1.0 %
農業 2 0.5 %
工業 29 7.5 %
商業 13 3.4 %
総合 4 1.0 %
その他 37 9.6 %
合計 387 100 %

 その他は、食品科、情報処理科、体育科、英語科、デザイン科、中華学校、通信制など。

C.「得意科目」を教えて下さい。(複数選択可能)

 1.現代文 2.古典 3.歴史 4.地理 5.公民 6.数学 7.物理 8.化学 9.生物 10.地学
 11.体育 12.保健 13.芸術 14.英語 15.家庭 16.情報 17.農業 18.工業 19.商業 20.その他【   】

 学校によって開講科目の違いが多いため、今回は参考にせず。

D.「部活動」をしていますか?

 1.している 2.していない(→ 2を選んだら F.へ)





E.「部活動」は1週間に何日活動していますか?(複数の部活をしている場合は合計)

 1. 0日〜1日  2. 2日〜3日  3. 4日〜5日  4. 6日〜7日




F.「アルバイト」(などの仕事)は、学校でどのような扱いですか?

 1.禁止されている(許可は難しい) 2.禁止されている(許可は簡単である) 3.特に禁止されていない




G.「アルバイト」(などの仕事)をしていますか?(正直に答えてください)

 1.している 2.していない(→ 2を選んだら I.へ)




H.「アルバイト」(などの仕事)は1週間に何日していますか?(複数をしている場合は合計)

 1. 0日〜1日  2. 2日〜3日  3. 4日〜5日  4. 6日〜7日




I. あなたは「授業・テスト」で、どのように行動しているか、教えて下さい。

「授業中にしっかりノートを取る」「試験の前にまとめて勉強する」「問題集でたくさん演習する」
「定期テスト前に暗記して覚える」「定期テストは軽視して受験勉強をしている」

  1.そう思う 2.どちらかといえばそう思う 3.どちらかといえばそう思わない 4.そう思わない





J. 普段の勉強をどのように考えているか、教えて下さい。

「定期テストを重視する」「受験勉強を重視する」「平常点を狙う」「欠点(赤点)さえ取らなければ良い」

  1.そう思う 2.どちらかといえばそう思う 3.どちらかといえばそう思わない 4.そう思わない





K. 黒板に書いてあるものを写した「授業ノート」の提出義務はありますか?

 1.ほとんど(すべて)の科目である 2.半分ぐらいの科目である 3.ほとんど(すべて)の科目で無い




L.「河合塾などの予備校」や「進研ゼミ」などの「模試」を受けたことがありますか?

 1.ある 2.ない(→ 2を選んだら N.へ)




M.「定期テストでの成績」と「模試での成績」について、「どちらの成績が良い」か、教えて下さい。

 1.定期テストの方が成績が良い 2.同じぐらいの成績である 3.模試の方が成績が良い 4.わからない





N. 現在、利用しているものがあれば、教えて下さい。(複数選択可能)

 1.集団指導の塾・予備校 2.個別指導の塾・予備校 3.映像指導の塾・予備校 4.通信指導 5.家庭教師 6.無し





O. 学校に対して、どう思っているか、教えて下さい。

「授業が難しい」「校則が厳しい」「先生が厳しい」「課題・宿題が多い」「授業外の講習が多い」

  1.そう思う 2.どちらかといえばそう思う 3.どちらかといえばそう思わない 4.そう思わない






P. あなたが「学校に求めること」を教えて下さい。

「受験指導」「就職紹介」「教養を深める」「友達を作る」「学校行事」「部活動」

  1.求める 2.どちらかといえば求める 3.どちらかといえば求めない 4.求めない






Q. あなたが「教師に求めること」を教えて下さい。

「学歴」「指導力」「授業力」「優しさ」「親しみやすさ」

  1.求める 2.どちらかといえば求める 3.どちらかといえば求めない 4.求めない







R. 現在通っている「学校」への、総合的な満足度を教えて下さい。

 1.満足している 2.どちらかといえば満足している 3.なんとも言えない 4.どちらかと言えば満足していない 5.満足していない





S. あなた自身の「将来への意識」について、教えて下さい。

「自分の将来像を描けている」「自分の成功をイメージできている」「将来、就きたい仕事がある」
「将来、成功するための戦略を持っている」「今、何をしたら良いか分かっている」「難しい目標でも、努力して乗り越えていく自信がある」

  1.そう思う 2.どちらかといえばそう思う 3.どちらかといえばそう思わない 4.そう思わない






T. あなた自身は、どのような人を「すごい」と思うか、教えて下さい。

「有名・優秀な学校の出身である」「有名・大きな企業に勤めている」「会社の給料が高く、お金持ちである」
「事業を成功させて、お金持ちである」「子供の頃の夢を叶えた人物である」「周りに左右されず思い通りに生きている」

  1.すごい 2.まあまあすごい 3.そんなにすごくない 4.全然すごくない






U. あなたは、自分が好きですか?

 1.とても好きだ 2.まあまあ好きだ 3.そんなに好きではない 4.全然好きではない



各群の比較

 各群を比較し、他群に比べて回答数が多いと見受けられるものは、以下のとおりである。
 なお、統計的に有意に差があるもの(有意水準5%)については、※印を付した。

 A群の傾向(入学時偏差値 70〜)
傾向が強い項目 傾向が弱い項目
■「部活動」をしている。※
■勉強法
 試験の前にまとめて勉強する
 定期テスト前に暗記して覚える
■学校への評価
 授業が難しい※
■教師に求めること
 学歴※
■「学校」への総合的な満足度※
■どのような人が「すごい」か
 有名・優秀な学校の出身である
 有名・大きな企業に勤めている
■「授業ノート」の提出義務がある。※
■学校への評価
 校則が厳しい※
 先生が厳しい※
 授業外の講習が多い※
■学校に求めること
 就職紹介※
■将来への意識
 自分の将来像を描けている※
 将来、就きたい仕事がある
■自分が好き※

 B群の傾向(入学時偏差値 60〜69)
傾向が強い項目 傾向が弱い項目
■「アルバイト」が禁止されている。※
■勉強法
 問題集でたくさん演習する
■校外模試を受けたことがある。※
■「定期テスト」よりも「模試」の成績が良い。
■学校への評価
 課題・宿題が多い※
 授業外の講習が多い※
■学校に求めること
 受験指導※
■将来への意識
 自分の将来像を描けている※
 自分の成功をイメージできている
■自分が好き※
■「アルバイト」をしている。※
■勉強への意識
 欠点(赤点)さえ取らなければ良い※

 C群の傾向(入学時偏差値 50〜59)
傾向が強い項目 傾向が弱い項目
■勉強法
 授業中にしっかりノートを取る※
 定期テストは軽視して受験勉強をしている※
■学校への評価
 校則が厳しい※
 先生が厳しい※
■学校に求めること
 受験指導※
■「部活動」をしている。※
■学校への評価
 授業が難しい※
■学校に求めること
 学校行事
 部活動
■教師に求めること
 学歴※
■将来への意識
 自分の成功をイメージできている
■どのような人が「すごい」か
 有名・大きな企業に勤めている
 事業を成功させて、お金持ちである※

 D群の傾向(入学時偏差値 〜49)
傾向が強い項目 傾向が弱い項目
■「アルバイト」をしている。※
■勉強への意識
 定期テストを重視する※
■「授業ノート」の提出義務がある。※
■学校への評価
 先生が厳しい※
■学校に求めること
 就職紹介※
■教師に求めること
 優しさ
■「アルバイト」が禁止されている。※
■勉強法
 定期テスト前に暗記して覚える
■勉強への意識
 受験勉強を重視する※
■校外模試を受けたことがある。※
■教師に求めること
 学歴※
 指導力※
■「学校」への総合的な満足度※
■自分が好き※


 また、調査の後、A群・B群・C群を対象にヒアリングを実施した。

 対象:A・B・C群に属する14名。
 内容:部活動加入率、授業態度、受験指導、学校への総合的満足度、将来性、自己肯定感に関することを中心に、各高校の特徴や、個人の意識などについて質問した。

 調査およびヒアリングの結果を受けて、以下にまとめる。


まとめ

1. A群(入学時偏差値70〜)について

(1) A群の特徴
 学校の授業について、「難しい」と答える生徒が最多であり、これは実際に授業で高度な内容を取り扱っていることが推察される。また、「定期試験よりも模試のほうが成績は良い」と答えた生徒が多いが、これは授業と同様に定期試験が難しく、模試のほうが簡単であることと、大学受験に対する意識が高いため、模試での幅広い出題範囲に対応できる学力があることが原因と考えられる。教師に求めることとして、「学歴」をあげる生徒が多かったことも特徴的であるが、これは「学歴」をその教師の持っている能力の指標として大きく評価していることを示唆するものであり、学歴に裏打ちされた指導力や教科専門性を求めていることが伺える。
 学校以外の学習機関を利用している生徒の割合も最も多く、種類としては「集団指導」および「映像授業」を受けている生徒が多い。これらは、「個別指導」「家庭教師」に比べて、学力や理解力が高い生徒が多いことによると推察できる。
 課外活動については、部活動への参加が活発である。学校に求めることとして、「受験指導」よりも「学校行事」を求める生徒が多かったことも特徴である。また、アルバイトをしている生徒も存在しているが、日数は抑えられている。学校に対する総合的な満足度についても高い。
 これらを総合的に考えると、A群の生徒は、学業、部活、アルバイトなど、マルチタスクをバランス良くこなすことができており、教師には学歴を担保とした高い教科専門性を求めるものの、大学受験一辺倒ではなく、学校行事などの課外行事にも積極的であると言える。大学受験に失敗した際の浪人率も高い傾向にあり、目標実現について強い意思を持っている生徒が多い。

(2) A群における課題
 将来に関する質問において、「自分の将来像を描けている」「将来、就きたい仕事がある」と回答した生徒が最も少ない結果となった。親の圧力が高いために自己の意思によって将来を決定できなかったり、プライドが高かったり、世間体を気にしたりするなどの傾向があった。また、「有名・優秀な学校の出身である」「有名・大きな企業に勤めている」といった大人を評価する生徒も多かった。「あなたは、自分が好きですか?」に対する肯定的回答率も最も低く、この原因として、自己・他者に対してともに厳しく、要求水準も高いことが考えられる。
 したがって、A群の生徒が乗り越えていくべき課題としては、自分自身としっかりと向き合い、将来について考えていくことや、その中で、親や周囲による期待に対して自分としてどのように葛藤・折衝していくのか、あるいは、どのように劣等感を原動力に変えられるかや、質の高い友人たちと互いに切磋琢磨していくのかが中心になってくると考えられる。
 昨今、高校においてもキャリア教育 の重要性が議論されているが、将来が不明確なA群の生徒たちに対して、より適切なアプローチが必要になってくるだろう。また、自己肯定感を高め、自信を取り戻すためにも、できれば学業以外での成功体験を増やしていくことが必要だと考えられる。自分に対して要求水準が高い場合の解決方法として、「自己をさらに高めていく」、あるいは、「要求水準を下げる」の二者が考えられるが、全てにおいて高い要求水準を求めていくことは精神的にも肉体的にも大変であるため、「有名・優秀な学校の出身である」「有名・大きな企業に勤めている」といった大人を評価するとしても、必ずしも自分がその基準どおりの大人になる必要はなく、他に自己の優れた点があればそれを自己承認していくことも重要であり、他人の価値観に囚われず自己を大事にしていくことが重要であることを認識させるようなサポートも必要となってくるだろう。

2. B群(入学時偏差値60〜69)について

(1) B群の特徴
 学校に対して、「課題・宿題が多い」「授業外の講習が多い」と答える生徒が他群に比べて最も多かった。また、学校に対して、「受験指導」を求める率が最も多かった。
 学校外部(予備校など)の模擬試験を受けたことがある比率も最多であった。その理由としては、学校による強制的な受験が考えられる。成績については、日頃から大学受験を視野に入れて日頃から勉強している生徒は、模擬試験のほうが成績が良い傾向にあった。学校以外の学習機関として最も多かったのは「個別授業」であった。学校で対応できない部分や学習が不十分な部分を個別授業の塾などに求めていることが伺える。
 また、学校でアルバイトを禁止されている生徒が最も多く、また、実際にアルバイトをしている生徒も少なかった。
 以上に鑑みると、B群の生徒は、A群ほどの高い学力ではない中で、生徒・保護者・教師がともに大学受験での高い実績を求める結果として、アルバイトを禁止して学業に専念させ、「課題・宿題が多い」「授業外の講習が多い」「授業時間数が長い」といった状況に加え、大学受験に向けて予備校主催の模擬試験を受けたり、学校の授業で覚束ない部分については個別指導の塾などで勉強する、といった形で、半ば強制的な学習状況が生み出されていると考えられる。
 しかし、「学校への総合的な満足度」や、自己肯定感について肯定的回答をする生徒が多く、また、自身の将来に関する設問についても、他群と比較して最も肯定的であった。すなわち、前段で述べた状況について、多少の不満はあっても、基本的には生徒もその必要性を感じて現状に満足しており、将来に向けて前向きであり、かつ自己肯定感も高いことが分かった。

(2) B群における課題
 B群では基本的にほとんどの生徒が大学受験を志し、その成功のために努力し、現在も将来も肯定的捉えていることが見えてきた。しかし、そもそもの高校教育の目的を考えたときに、大学受験指導を全面に出した「予備校的」な教育のあり方や、ヒアリングでも聞かれたような「大学受験以外の進路を選びたい」といった生徒に対しての否定的・非協力的な指導のあり方が、果たして健全であるのかという問題が発生する。また、「面倒見の良い学校」という評価についても、当然肯定的な部分はあるが、自主性の欠如要因となったり、教師の負担増につながるなど、背景には大きな問題をはらんでいる。
 まず、教師側が解決すべき課題として、「個別的なサポート」が不十分である点があげられる。B群の生徒はA群の生徒に比べて学力が低いため、より多くの教育的マンパワーが必要となるが、学校における教員定数や、割くことのできる人員にも限りがあるため、どうしても生徒一人一人に対しての指導が及ばずに、膨大な課題・宿題を課したり、集団指導をせざるを得なくなってしまう。大学進学以外の進路を希望する生徒に対しても、集団指導における「規格外」となってしまうため、指導が希薄になりがちであるし、そうした生徒の進路選択自体を教師が「失敗」や「逃げ」だとして捉えている可能性もある。こうした現状をまずは教師がしっかりと理解し、どういった教育が本質的に適切であるのかを今一度吟味していく必要がある。
 一方で、生徒側の課題として、こうした教師主体の学習方式を是と捉えることにより、自主性が失われ、教師依存的になる可能性があり、また、大学受験を前提とした一意的な価値観が固定化する可能性がある。前者については、「主体的・対話的で深い学びの実現(『アクティブ・ラーニング』の視点からの授業改善)」が、一つの有用な方法であると考えられる。文部科学省は、学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」を提唱している。 しかし、これまでB群において大学受験突破を前提とした教育が継続されてきた歴史を振り返れば、こうした改革については、生徒や保護者のみならず、教員からも多くの反対意見が出されることが予見されるため、今後も継続的な議論と折衝が必要となってくるだろう。また、後者については、大学進学後にインターンシップやボランティアに参加するなどによって視野や見識を広げていくことなどが、現実的な解決策であると考える。まずは、目の前の大学受験を突破することで、その先のことや、その他のことを余裕を持って考えられるようになるだろう。
 教育経済学の分野では、教育行動の意味を「人的資本論」あるいは「シグナリング理論」といった投資的視点から捉えることが多いが、「教育を教育として消費する」「学習を学習をとして楽しむ」といった観点も含めて、「何のために勉強するのか」といった本質的な議論が求められる。
 いずれにしても、高校時代の経験や価値観が、その後の人生に大きく影響を与えることを、教師・生徒・そして保護者がよく理解した上で、中長期的な視野での見通しを持つことが必要であると考えられる。

3. C群(入学時偏差値50〜59)について

(1) C群の特徴
 普段の学習姿勢については、「授業中にしっかりノートを取る」生徒と、「定期テストは軽視して受験勉強をしている」生徒が、他群に比べてともに有意に多かったが、これらを分析すると、「授業中にしっかりノートを取る」かつ「定期テストは軽視して受験勉強をしている」の割合が他群に比べて高かった。授業ノートの提出義務があると答えた生徒の比率もD群に次いで高かった。また、「課題・宿題が多い」と答える生徒についても、B群に次いで多く、学校に「受験指導」を求めたり、教師に「授業力」を求める生徒が多かった。そうした状況を踏まえると、受験勉強を重視したいが、提出義務があるが故にノートをしっかり取っているという生徒が他群に比べて多く存在していることが推察される。また、受験勉強重視傾向の生徒が一定数存在するにも関わらず、学校が板書ノートの提出義務といった強制的な学習方法をとっている理由としては、学習意欲のない生徒が混在していることによると考えられる。
 予備校などの模試を受けたことがある生徒は、D群に次いで少なく、他群と比較して「定期テストよりも模試のほうが成績が良い」と答える生徒が最も少ない結果となった。大学受験(主に一般入試)に対する個々人の意識差も大きく、受験を意識した学習をしていない生徒も多く予想される。
 部活動を行っている生徒の比率は最低であった。また、アルバイトについては、禁止率は平均程度であるが、他群では見られなかった「週に6〜7日のアルバイトをしている生徒」が1割程度見られた。必ずしも「部活動に参加しない生徒がアルバイトをしている」わけではなく、「部活動もアルバイトもしない生徒が多くいる」ことが分かった。
 将来については、「有名・優秀な学校の出身である」「有名・大きな企業に勤めている」といった質問についての肯定的意見が少なく、必ずしも「有名・大きな企業」に勤めることよりも、自らの身の丈にあった企業や、地元での就職を肯定的に考えていることが推察される。

(2) C群における課題
 学習面については、C群では学校内で様々なタイプの生徒が存在しており、しっかりと勉強したいという意識がある生徒が一部に存在していても、周囲の意識が低い、あるいは周囲が勉強をしないために、学校全体として受験に対する意思統一ができないことがあげられる。生徒の進路希望としても、大学や専門学校への進学希望者もいれば、公務員や民間企業への就職希望者も混在している、いわゆる「進路多様校」の様相を呈している。
「大学受験のために勉強する」という行為は、生徒が高校で勉強をするための大きなインセンティブとして機能している面があるが、進路多様校の場合、それが機能する生徒と機能しない生徒が混在しており、生徒の能力的な側面からも、学校としても焦点が定めにくく、学業や課外活動、行事などについても中途半端になりがちである。これを解決する一つの方法としては、早い段階で進路希望を決定し、その方向性を定めた上で生徒のニーズにあった指導をしたり、「文系進学クラス」「理系進学クラス」「就職クラス」といった形でのクラス編成を行ったりする方策があげられるが、生徒の進路方向性を拙速に定めると、後々の進路志望変更が難しくなる上に、分断的なクラス編成によって校内の分裂・断裂はさらに顕著なものになるだろう。ヒアリングで聞いた懐柔策として、「授業クラス」と「ホームルームクラス」をつくることによって、クラスの色・雰囲気や、男女比のばらつきを抑えている学校があった。これは、文系・理系を分ける際にも有用な方法である。
 学習面以外でも、C群では学校内で「学校行事」「部活動」を求める生徒が最も少ないことがあげられる。上記(1)のとおり「部活動もアルバイトもしない生徒が多くいる」ことから、あるいはこうした生徒が「学校行事」「部活動」も求めずに大学受験に向けて学習を進めている可能性もあり、逆に、「週に6〜7日のアルバイトをしている生徒」が1割程度見られたことも、校内の分裂や二極化を示しているものと思われるが、これらの点については詳細な分析ができなかったので、筆者として今後の課題としたい。
 学校への総合的な満足度については、「不満足」「どちらかと言えば不満足」を合わせると他群と比べて最も多かった。「校則が厳しい」「先生が厳しい」という不満が顕著であったり、勉強面においても危機感がなく、勉強をしない生徒に合わせてレベルを下げた授業に対しての不満が聞かれた。特に目標もない生徒の場合、ともすれば自堕落になりがちであるため、生徒指導を厳しくすることは間々見受けられるが、非行なく真面目に取り組んでいる生徒にとっては不愉快であろう。また、上述の「学業に対する意識差」を考慮しても、受験に向けて頑張る生徒からしてみれば、そうでない生徒は「足手纏い」に感じるかもしれないし、そうでない生徒からしてみれば「勉強は自分とは関係ないこと」だと受け止めているかもしれない。そうした意味では、校内での分裂や二極化は深刻な問題である。
 自己肯定感についても否定的回答が多かった。何かを成し遂げようと思ってもやる気が出なかったり、計画を立ててもその通りに実行できないなど、学習面に関して精神的な弱さに起因するものや、言いたいことを言い出せなかったり、現実逃避が多いなど、性格や行動面、あるいは能力的側面について否定的に捉えている傾向があった。これらについては、生徒たち自身が立ち向かい、解決していかなければならない課題である。

4. D群(入学時偏差値 〜49)について

(1) D群の特徴
 部活動を行っている生徒が多く、週あたりの活動日数も「週6〜7日」の率がA群と同様に最多となっている。また、アルバイトについても「禁止されていない」および「許可は簡単である」を合わせると最も多く、実際にアルバイトをしている生徒が最も多い。部活動やアルバイトなど、課外活動に熱心な様子が見受けられる。
 授業での行動に関しては、「授業中にしっかりノートを取る」、「定期テストを重視する」について肯定的な回答が他群と比べて最も多くなっている。同時に、「平常点を狙う」、「欠点(赤点)さえ取らなければ良い」と考える生徒も一番多い傾向にあり、授業ノートの提出義務があると回答した生徒も最も多く、定期テストについては「欠点(赤点)さえ取らなければ良い」と考える生徒が多かった。以上に鑑みると、D群の生徒は、定期テストを重視するものの、「欠点でなければいい」という意識の下であまり得点ができないため、授業中にしっかりノートを取り、ノート提出によって平常点を得る、という実態があると推察される。「授業が難しい」と感じる生徒の比率については、C群よりも多く、学力が低いために授業を難しく感じている生徒が多いと考えられる。
 模試を受けたことがある生徒の比率は最も少なく、学校以外の学習機関については、9割近くが「なし」と答えた。大学受験に対する意識は希薄であることが伺える。また、学校に求めることとして、「就職紹介」をあげる生徒が他群と比較して最も多かった。
 学校への評価として、「校則が厳しい」「先生が厳しい」について比率が高く、教師に求めることとして「優しさ」が求める生徒が最も多かった。これは、実際に校則が厳しく、厳しい指導が行われているため、優しい先生が需要されていると推察される。
 また、成人への評価について、「事業を成功させて、お金持ちである」に関して肯定的であったが、これは、必ずしも学業成績が事業成功に結びつかないため、そうした将来を自らに関連させて高い評価としている可能性が考えられる。

(2) D群における課題
 学校への総合的な満足度が、他群に比べて最も低い値となったが、この原因は「校則が厳しい」「先生が厳しい」「授業が難しい」といった学校への不満と考えられる。また、自己肯定感についても、他群と比較して否定的回答が最も多かった。C群においても、自己の意識や行動に起因するマイナス要因が目立ったが、D群ではさらに学力が低いことや、これまでの成功経験の少なさが原因と考えられる。
 まず、「校則が厳しい」「先生が厳しい」ことについては、学習意欲が低い生徒が多く、学習以外のことに関心が向きがちである状況でありながらも、なんとか教育活動を持続するための方策であり、就職の紹介や学校推薦による進学を求める生徒が多い中、学校全体のモラル向上や、進学先・就職先、地域などからの評判の向上などに努めていることが推察される。
 また、「授業が難しい」ことについては、実際に学力の低い生徒が多い状況で、生徒の基礎的な学力の向上を図ったり、そもそも学習する意義を見いだせていない生徒に対してのアプローチを考慮する必要があると考えられる。筆者の勤務校でも、何を勉強して良いのか、どうやって勉強して良いのか分からず、特に進路も定まらず、アルバイトや部活に精を出しているうちに、何となく就職したり進学したりするという生徒が多いため、そもそも高校に通う意味を教師・生徒ともに考えていかなければならないだろう。
 そうした状況での授業改善として、D群ではいわゆる受験教育に囚われる必要がないからこそ、真に必要な本質的な教育を提案したい。B群やC群では、生徒・保護者などによる需要もあるため、現実的にどうしても受験を意識した授業をせざるを得ないが、そうではないD群においては、時間的・カリキュラム的な余裕もあるため、例えば、B群で提案した「主体的・対話的で深い学びの実現(『アクティブ・ラーニング』の視点からの授業改善)」も、一つの有用な方法であると考えられる。当然、学力が低いために必ずしもうまくいかないことも多いと考えられるが、狭い範囲であっても丁寧に下積みをした上で、調べ学習やグループワーク、ディベートや発表などをしていくことで、「学ぶ」ということの本質的な喜びを感じ得ることができるだろう。『高校生の勉強と生活に関する意識調査』(国立青少年教育振興機構, 2017)においても、『日本の高校生は、「教科書に従って、その内容を覚える授業」が多いと感じている反面、いろいろな教材や教具を活用する授業、生徒個人やグループで調べる授業などが少ないと感じている』と指摘されている。
 D群における自己肯定感の低さを改善するためには、学業に限らない成功体験の積み重ねが必要であると考えられるが、授業を通して少しでもその改善のキッカケづくりをすることができれば、まさに教師の本望となろう。

5. その他について

 偏差値群別による分類の他に、男女差による分類についても試みた。男子については、「定期テストは軽視して受験勉強をしている」の傾向が強く、女子については「授業中にしっかりノートを取る」「平常点を狙う」「学校行事を求める」「将来、就きたい仕事がある」という傾向が強く出ていた。
 また、地域によって3年生の単位数を標準単位数(週あたり30単位)よりも少なくしている高校が複数見受けられた。